世界各地の異常気象や温暖化を受け、今、地球環境を守る取り組みが大切になっています。2016年の「パリ協定」を受け、日本は2020年10月に「2050年カーボンニュートラル(ネットゼロ、温室効果ガスの排出を全体としてゼロとする)」を宣言。世界各国でも同様の動きが広がっています。また、産業界にも同様の動きは広がり、ONEもこの大きな目標に立ち向かうべく、2022年3月に環境戦略を明らかにしました。挑戦真っ只中の今、ONE特派員が最前線の取り組みをプロジェクトの責任者に聞きました。
和氣航志郎 Corporate Strategy & Sustainability | Senior Vice President
はい、もちろんです。ただ、意外かもしれませんが、貨物船などの船舶は、飛行機やトラックなどの輸送手段にくらべると輸送単位当たりのCO2の排出量が圧倒的に少ない「環境に優しい輸送手段」なのです。しかし、世界貿易量の9割以上を海運が担っており、実際には膨大な量の貨物を船舶で運んでいることになります。
輸送しているものの量に比例して、たくさんの船舶が必要になるため必然的にCO2排出量も増えることになります。環境に優しい輸送手段ですが、だからと言って何もアクションを起こさなくて良いということにはなりません。
輸送によるCO2排出量の比較 | 出典:International Chamber of Shipping ウェブサイト
まず世界全体のなかで、国際海運によるCO2の排出量は2~3%ほどを占めています。さらに海運全体のなかでコンテナ船からの排出量が占める割合は、20~30%ほどといわれています。
2023年7月にロンドンで開催した「第80回海洋環境保護委員会(MEPC 80)」で、IMO(国際海事機関)がCO2を含む温室効果ガスの排出量を「2050年までに実質ゼロにする」と宣言しました。以前は段階的な削減目標でしたが、改めて目標を高く設定し直したかたちです。これにより、「2050年ネットゼロ達成」に向けて、海運業界全体で取り組みが本格化しているんです。
地球環境を守る取り組みが海運でも本格化している
はい、挑戦の真っ只中です。ここまで大きな目標となると、特定の部署が単独で取り組んで達成できるものではありません。ONE全体のチームワークとコラボレーションがとても大切になります。また、当社単独で出来ることにも限界がありますので、社外の様々なステークホルダーとの協力も重要です。2021年に当社は環境戦略部を設立しましたが、当初から技術部門、や船の運航、航路設計、燃料調達、営業部門など、様々な部署を超えたメンバーが兼務ベース参加し、皆で議論しました。この議論は、ONEが2022年に公表した「環境戦略」のもとになっています。
最新の環境技術を盛り込んだ2023年就航の超大型コンテナ船
第一段階として2030年に「スコープ1でTEU/km当たりの温室効果ガス排出量を2008年比で70%削減」、その後、2050年の目標として「スコープ2・3を含む絶対排出量でネットゼロ達成」を掲げています。すごく難しく聞こえますよね。
スコープは簡単に言うと「範囲」のことで、1から3までの数字は範囲の違いを表しているんです。
スコープ1…ONEが運航する船から直接排出される温室効果ガス
スコープ2・3…ONEの船からは直接排出されていないが、オフィスやサプライヤーなどのステークホルダーから排出される温室効果ガス
そして、「TEU」というのは、20フィートコンテナ(一般的なサイズのコンテナ)1個分の単位のこと。
ONEの船(スコープ1)として掲げている目標は、「20フィートコンテナで貨物を1キロメートル輸送するときに、排出する温室効果ガスを、2030年には2008年に比べて70%削減する」ということです。ONEの船以外での目標(スコープ2・3)は、ONEのお取引先やサプライチェーン全体の温室効果ガス排出量をゼロにするという目標ですから、これはかなり難易度が高いと言えます。パートナーとの協力が必須ですが、関係者全員でカーボンニュートラルを意識することができれば、不可能ではないと思っています。
ONEは環境戦略として7つのイニシアチブを掲げていますが、このうち特に脱炭素に関わるのが「グリーン投資」「代替燃料」「カーボンマネジメント」「効率的なオペレーション」「エコシステムの構築」の5つです。
代表的な取り組みをいくつかご説明します。
グリーン投資の中心は「環境対応船(グリーン燃料船)」への大規模な投資です。2025年からは、燃費性能に優れ、環境に優しい燃料(アンモニアやメタノール)に対応可能な設計を備えた大型コンテナ船の導入が始まります。また、2027年にはメタノール焚き二元燃料エンジン搭載の大型コンテナ船が就航予定です。これらの投資により、船から排出される温室効果ガスの削減を目指します。
また、環境に優しい船舶関連の新技術にも投資をしています。2023年には、コンテナ型の風力推進アシスト装置の導入を決定しました。船上で帆の役割を果たす装置で、風の力を利用して燃料使用を抑制し、温室効果ガスの排出量を削減できる装置です。これ以外にも、さまざまな環境関連新技術への投資を予定しています。
コンテナ型の風力推進アシスト装置。船上で帆の役割を果たす
代替燃料については、「メタノール」を燃料にした新しいコンテナ船の発注が増えつつあります。将来的には「アンモニア」燃料船の発注も増えてくると考えており、当社もパートナーと協力してアンモニア二元燃料コンテナ船のAiP(基本設計承認)を取得しました。これは、アンモニアを燃料とする将来のコンテナ船の基本コンセプトについて、技術的に実現可能であることを確認した、ということですね。また、「水素」などの先進的な燃料についても将来的に利用される可能性もあり、研究をしていますが、実現までには少し時間がかかるかもしれません。いずれも今まで一般的に使われてきた「重油」に比べ、温室効果ガスの排出が少ない、環境に優しい燃料と言えます。
エコシステムの構築というのは、社外のネットワークやコラボレーションの活性化をイメージしています。先ほどお話ししたように、「2050年ネットゼロ達成」という目標は、周囲と協力してこそ成し遂げられる目標です。もちろん競争は重要ですが、脱炭素のさまざまな技術や取り組みを独占するのではなく、共同で取り組むアプローチが成功の鍵です。志を同じくするみなさんと一緒になって取り組んでいきたいですね。
2027年就航予定のメタノール燃料対応コンテナ船のイメージ図
私たちは、世界中で多種多様なものを運ぶことを生業にしています。それは単に「もの」を運ぶということではなく、それに関わる人の想いを乗せ、届けることによって人々の喜びや幸せに貢献することが、仕事の本質だと思っています。今は化石燃料を使用した輸送が中心で、少なからず地球環境に影響を与えていますが、コンテナ海運という社会インフラ事業を持続可能なものとしていくためには、脱炭素化への取り組みはとても重要だと考えています。将来も人々のくらしを支え続けられる事業でありつづけるために、サステナブルなコンテナ海運を実現するべく、頑張りたいと思っています。
経営・環境および広報戦略の策定・実施を担う。
ONEの存在を世の中に伝えるために、あらゆるプロジェクトに密着する特別報道チーム。ONEのビジネスや、海運・環境を考える姿勢を伝えるべく、プロジェクトについて気になる「なぜ?」「なに?」を掘り下げていく。